実家を相続したタイミングだけでなく、両親が存命であったとしても「いざという時に備えて実家の名義変更をしておきたい」と考える方は多いのではないでしょうか。しかし、実家の名義変更の手続きは多くの書類が求められ、税金の支払いも必要です。
そこで今回は、実家の名義変更を行うにあたって知っておくべきことについて解説します。
目次
実家の名義変更が求められるタイミング
遺産相続
両親が亡くなり実家の相続が発生した場合、相続完了後に名義を相続人のものに変更しなければなりません。相続後に発生する不動産登記は「相続登記」とも呼ばれます。
「遺言書がない」「法定相続分とは異なる割合で相続したい」などのケースでは、相続人間で遺産分割協議を行ったのち、相続割合を決めてから相続登記を行います。
実家の相続にあたっては相続登記を行わず、名義をそのままにしておくと相続が行われるたびに相続人が発生していき、権利関係が複雑になってしまいます。そのため、実家の相続が発生した場合は、速やかに相続登記を実施するようにしましょう。
生前贈与
生前贈与とは、財産の所有者が故人となった後に行われる遺産相続に対し、生前に行われる財産の無償譲渡です。実家の生前贈与が行われた場合、遺産相続のケースと同様に名義変更を行う必要があります。
財産分与
財産分与とは、結婚中に夫婦が持ち家を取得したものの、その後離婚した場合などに物件の権利を元夫婦間で委譲する手続きです。
その際に名義の変更も求められますが、財産分与にあたって土地・建物で名義人が違っていたり、住宅ローンの残債が存在したりすれば、手続きが複雑になってしまいます。
物件売却
実家の売却を行った場合は、売主から買主への名義変更を行います。不動産売買では、買主は売主に対して「名義変更の請求権」を保有しているため、トラブルを避けるためにも売買成立後は速やかに名義を変更しましょう。
実家を名義変更する方法
前述したいずれのケースにおいても、実家の名義変更は「法務局」に必要書類を提出し、不動産情報を登記する形で行います。名義変更手続きで登録する不動産に関する情報は所有者や面積、形などです。登記を行う法務局は、実家所在地のエリアを管轄する局で行いましょう。
法務局が開いているのは平日のみであるため、都合上どうしても自分で赴くのが難しい可能性も懸念されます。そのような場合は、司法書士などの専門家に名義変更の手続きを依頼するのも手段のひとつです。
名義変更で必要な書類
実家の名義変更を行うために事前に用意しなければならない書類は多岐に渡り、以下のものが求められます。相続や贈与、分与、売買などの手続きごとに名称が変わるものもありますが、基本的には以下の書類が必要です。
- 登記原因証明情報
- 登記識別情報(登記済権利証)
- 住所証明書(住民票)
- 印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 代理権限証書(委任状)
上記の内、代理権限証書は専門家などに依頼する場合に必要な書類となります。
これらの書類以外にも、生前贈与の場合は贈与契約書など、名義変更に至った理由によってそれぞれ専用の書類を作成しなければなりません。
法務局への申請方法は3種類
法務局への申請方法は「窓口での申請」「郵送での申請」「オンライン申請」の3種類となります。
まず、窓口での申請ですが、これは直接管轄の法務局に赴き、書類を提出する方法です。書類に不備があったとしても、その場で指摘を受けて修正できますので、印鑑や必要書類の準備さえ忘れなければ一回で名義変更を終えられます。
郵送やオンラインでの申請は「実家が遠方にある」「平日対応は難しい」とのケースでも名義変更の申請が可能です。一方で、専門的な知識がない場合、時間がかかってしまうと懸念されます。
実家の名義変更で必要な費用
登録免許税
登録免許税は、実家の名義変更の際に行う不動産登記で支払う税金です。課税額は土地と住宅を分けて計算され、それぞれの固定資産税評価額に税率をかけて算出されます。
登録免許税の税率に関しては現在減税措置が施されており、土地・住宅ごとに以下のようになっています(※1)。
贈与税(※生前贈与の場合)
贈与税は生前贈与で実家の名義変更を行う場合に支払うことになる税金です。毎年1月1日から12月31日までに贈与された財産について税務署に申告する形で納税を行います。
平成27年以降、贈与税の税率は「一般贈与財産」「特例贈与財産の税率」に区分されており、それぞれ適用条件と税率が異なります(※2)。
一般贈与財産は兄弟間・夫婦間での贈与や、親から子に贈与が行われた際に子が未成年者であった場合に適用され、税率は以下の通りです。
一方、特例贈与財産は祖父母や父母などの直系尊属から、その年の1月1日において20歳以上のタイミングで贈与を受けた場合に、以下の税率が適用されます。
各種書類の取得費
名義変更のための相続登記では、前述の通りいくつかの書類を集める必要があり、中には取得費用がかかる書類もあります。
特に、相続登記で名義変更を行う場合は相続人の人数や被相続人の転籍回数などによって取得費用が上下します。おおよその目安としては、親子間で一人っ子の相続では1万円前後、兄弟姉妹がいる場合は2万円以上かかるのが一般的です。
司法書士への報酬
名義変更に必要な相続登記を司法書士に委託した場合は、その委託費用も必要です。依頼料は事務所ごとに異なるものの、おおよその相場は10万円前後と認識しておきましょう。
実家の名義変更を検討するタイミング
両親が健在の場合でも、認知症などにより判断能力が低下してしまうと、名義変更が難航するケースがあります。
例えば、実家の名義人である父が亡くなり、母は健在であったケースにおいて、母親が認知症を抱えていた場合などです。
この際に遺言書が用意されていなければ、実家の名義変更を行うためには遺産分割協議を行わなければなりませんが、認知症の人は参加できないため、別途成年後見人の専任が求められます。
「相続登記の義務化」で今後は名義変更を行うことが必須となる
従来は、相続などで実家を相続したとしても名義変更を行う義務はありませんでした。しかし、法務省による「相続登記の義務化」に関する法改正案が閣議決定され、2024年までの施行が決まっています(※3)。
これにより、施行後に期限内に相続した実家の登記を行い名義変更をしなければ、10万円以下の過料が課せられるようになりました。
一方で、この法案では相続人申告登記の創設などによる、名義変更に係る負担軽減策や環境整備策も併せて予定されています。
まとめ
遺産相続や生前贈与などにより実家の所有権が移った場合、併せて名義変更を行う必要があります。
名義変更の手続きで集めるべき必要書類は多岐に渡り、税金の支払いなども発生するため所有権が映ると判明したタイミングで準備を始めるようにしましょう。
参考:
※1 財務省,「登録免許税に関する資料」,https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e08.htm,(2022/02/18)
※2 国税庁,「贈与税の計算と税率(暦年課税)」,https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm,(2022/02/18)
※3 法務省,「所有者不明土地関連法の施行期日について」,https://www.moj.go.jp/content/001360807.pdf,(2022/02/18)