空き家が老朽化した築古物件である場合、住んだり、利活用したりする前段階として、まずは物件を“綺麗な状態”になおす所から始める必要があります。空き家のリノベーションはその手段のひとつです。
一方で、空き家のリノベーションを検討される方のなかには、実施方法や費用感についてわからないという方も多くいらっしゃるでしょう。そこで本稿では、「リノベーション vs リフォーム」の違いにはじまり、空き家をリノベーションするにあたって知っておくべき必要知識を解説します。
目次
そもそも「リノベーション」はリフォームとどう違うのか?
そもそも「リノベーション」とは、すでに建っている物件を大きく改修することにより、物件機能を“新築以上の状態”に改善し、価値をより高めたりする工事です。
それに対して「リフォーム」とは、老朽化などにより傷んでしまった物件を“新築相当の状態”に戻す作業となります。アパートやマンションなどの賃貸物件は、退去が発生したあとに原状回復作業を行いますが、これも定義的にはリフォームと言えます。
そのため、空き家のデザインや内装、設備が古く、リフォームを行ったとしても現在の目線から見れば厳しいと感じられる場合はリノベーションが選択肢としてあがるでしょう。特にこれは、空き家を居住用ではなく賃貸や事業用として活用しようと考えた場合に検討されます。
空き家リノベーションを実施するメリット
物件の資産価値が上がる
戸建て物件は経年とともに、資産価値がどんどん目減りしていきます。特に、老朽化によりダメージを負ってしまった築古の空き家であれば、資産価値がほとんどない状態となります。そのような状態では、居住用ならまだしも、賃貸としての貸し出しといった利活用や売却は、よほどの立地条件でない限りは難しいでしょう。
しかし、もし骨組み自体はしっかりしていて、耐震基準が問題ないなら、リノベーションを実施することで資産価値を上げられます。
さらに、空き家を放置し続けると「特定空き家」に指定され、固定資産税の支払額が最大6倍になるリスクがあります。リノベーションを実施して空き家の状態を新築以上のものにできれば、こういったリスクの低減にも繋がるのです。
再建築するよりも費用が安い
空き家をすべて解体し、新たに立て直そうと考えた場合、解体費用に加えて基礎から作り直す分の費用がかかってしまいます。加えて、日本は新築信仰が根強いため、「新築」であるだけで建築費用が高めに見積もられてしまうことも懸念されます。
そこをリノベーションで済ませられれば、大幅な費用削減が可能です。
居住目的以外にも事業用の活用もできる
空き家を大きく改修するなら、物件に居住用ではなく事業用途としての機能を持たせることもできます。例えば、空き家を活用したカフェやコワーキングスペースなどです。
さらには、シェアハウスや美容室など、空き家の立地や周辺エリアの需要次第では、幅広い選択肢が生まれます。
空き家リノベーションを実施するリスク
築古の物件の場合は耐震性のなさや再建築不可が懸念される
空き家をリノベーションする際に最も懸念されるのが、物件の耐震性です。日本においては1981年を境に耐震基準に変更が加えられているため、それ以前に建築された物件をリノベーションする場合は耐震補強工事が必要になる可能性が大いにあります(※1)。
ローンを利用する場合は金利が高くなりやすい
空き家のリノベーションでは、新築などで用いられる住宅ローンは利用できません。そのため、どうしても資金が足りないならリフォームローンなどを活用するという選択肢を採ることになりますが、住宅ローンよりも金利が高くなりがちである点がネックです。
しかし、物件をこれから購入してリノベーションする予定なら、購入費用に工事費用も加えて低金利な住宅ローンを組める可能性もあります。
空き家リノベーションにかかる費用の相場感
リノベーションと言っても、部分的な工事から大規模な改修工事まで、空き家を改修する範囲によって予算感は変わってきますが、おおよそ300〜1,500万円の資金が求められます。各設備・改修箇所ごとに必要なリノベーション予算の目安としては、以下の通りです。
- トイレ…30〜40万円
- 浴室…50〜200万円
- キッチン…50〜250万円
- 洗面所…18〜20万円
- 天井…5〜50万円
- 壁…30〜120万円
- 床…4〜15万円
- 外壁…30〜300万円
- 屋根…5〜20万円
- 耐震化…50〜200万円
- 断熱化…20〜300万円
空き家リノベーションで利用可能な補助制度
国や地方自治体が実施している補助制度
日本では現在空き家が増加傾向にあり、社会問題となっていることを受け、各都道府県や地方自治体から空き家関連の補助制度が実施されています。そのなかには、空き家のリフォームやビジネス用途に対応したものも多くあります。
例えば、東京都杉並区で実施されている「空家等利活用モデル事業助成金 」は区内にある空き家を利活用するモデル事業に選定された事業者などに対し、改修工事費や設計監理費を補助する制度です(※2022年5月現在)。
このような事業内容は、各自治体ごとに実施内容が異なりますので、空き家所在地を管轄する行政に随時問い合わせてみましょう。
同ブログ内では、各都道府県で利用可能な空き家関連の補助制度についてもまとめていますので、合わせてご参照ください。
各種減税制度
居住用に空き家をリノベーションする場合なら、工事費を各種税金から控除する減税制度を利用できる可能性があります。この減税制度については「住宅ローン控除」をはじめ、下記のようなものが存在します。
【住宅ローン減税】
10年以上返済期間で組まれた住宅ローンがある場合、年末のローン残高の1%について、所得税から控除できる制度。
【ローン型減税】
5年以上の返済期間のリフォームローンを利用している場合、指定の控除対象限度額の2%(+α)が所得税から控除される制度。
【投資型減税】
工事費用相当額の10%について所得税から控除できる制度
【固定資産税の軽減】
空き家にかかる固定資産税の1/3〜2/3を1年度分軽減できる制度(条件次第で2〜3年度分も可)。
【贈与税の非課税措置】
親や祖父母から贈与された空き家について、条件を満たせば贈与税の非課税措置を受けられる。
まとめ
空き家のリノベーションはリフォームと違い、物件の状態を“新築以上”にするための改修工事です。現代のトレンドを抑えた内装・機能を付与すれば、居住用だけでなく事業用途としても物件を活用する余地が生まれます。
一方で、築古の空き家をリノベーションする場合は、耐震性や資金の調達方法が懸念点となります。空き家がある住所の自治体によっては、リフォームに利用可能な補助制度を実施しているケースもありますので、積極的に問い合わせてみましょう。
参考:
※1 国土交通省,「建築関係法の概要」,https://www.mlit.go.jp/common/000134703.pdf,(2022/05/18)