昨今、日本で深刻化している空き家問題の背景には、少子高齢化があります。そのため、空き家を介護施設として活用する取り組みは、単に空き家所有者が収益を得るためだけでなく、社会的な意義があると言えるでしょう。
本稿では、空き家を個人が介護施設として活用する場合の実現可能性やリスクについて論考します。
目次
今後の日本における介護施設の必要性
少子高齢化により市場ニーズは上昇し続ける
現在、日本においては介護施設の需要・供給量ともに増加し続けています。
国土交通省・厚生労働省が共同創設した「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」の公開している資料によると、平成23年では「112棟・3,448戸」であった日本の介護施設の数は、令和4年の時点で「6,999棟・229,947戸」に増加していると判明しました(※1)。
国土交通省・厚生労働省が同システムを創設した背景には、介護・医療サービス付きの住宅の需要は増しているにも関わらず、供給面では欧米各国に比べて立ち後れている現状を鑑みてのことです。
実際に空き家の活用方法のひとつとして注目されている
高齢者層の増加とともに深刻化しているのが、空き家数の増加となります。総務省統計局が発表している平成30年版「住宅・土地統計調査(※2)」によると平成5年時点で448万戸だった日本の空き家数は、平成30年には846万戸にまで増えています。
日本の行政・各地方自治体では、空き家問題を解決するため、空き家所有者が物件を利活用するための取り組みが多数行われています。
そんな空き家の利活用手段として注目が集まっているのが、ニーズが高まっている介護施設活用です。
前述した通り、国土交通省・厚生労働省がサービス付き高齢者向け住宅情報提供システムを創設した背景には「サービス付き高齢者向け住宅」の増加の意図があります。ここで言うサービス付き高齢者向け住宅とは、介護・医療と連携し、高齢者を支えるサービスを提供するバリアフリー構造の住宅を指します。
住宅としての居住スペースの広さや設備・バリアフリーといったハード面の条件を備えるとともに、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスを提供することで、高齢者が安心して暮らせる住環境の整備が求められています。
空き家を介護施設として活用するメリット
多くの助成制度が存在する
空き家の利活用を目的とした改修工事には、多くの自治体で助成制度を利用可能です。特にその対象が介護施設のような社会福祉施設であった場合は、利用できる補助金の幅も広がりやすい傾向があります。
もともとあった空き家を介護施設に改修する場合、バリアフリー化のために大幅な改修が必要になりますが、こういった助成制度を有効活用すれば、資金面での負担を少なくできます。
税制上のメリットがある
介護施設として活用すれば、税制上の軽減措置を受けられる可能性があります。例えば、老人デイサービスセンターなどの老人福祉施設事業や、老人デイサービスなどの社会福祉事業に用いる物件に対しては、固定資産が非課税となると地方税法により定められています(※3)。
幅広いエリアで需要がある
高齢者向けの介護施設は、都心部だけでなく、地方においても一定の需要が見込まれます。空き家を賃貸物件として貸し出す場合などは、立地条件が安定的な収益に大きく影響しますが、高齢者層が増加している地方エリアにおける介護施設運営なら、そういった心配もありません。
むしろ、各種インフラが整っている都心エリアより、地方で介護施設を運営する方が歓迎されやすいと考えられます。
空き家を介護施設にする際の改修ポイント
既存の空き家を介護施設に改修する場合、以下のようなバリアフリー化が求められます。
- 手すりの設置
- 転倒防止のための段差の排除
- ドアを引き戸に変更
- 照明の増設
- 廊下や居住スペースも広くとる
手すりの設置や段差の排除といった怪我をしないための設備の改修は必須として、ドアを引き戸に改修したり、暗い部分をなくすために照明器具を増設したりといった取り組みも求められます。
床の材質に関しては、滑りにくく、より転びにくいものを選ぶといった取り組みも必要です。さらに、高齢者が施設内で車椅子や歩行器で移動したり、簡易トイレを置いたりする可能性を考慮すると、廊下や居住スペースの間取りもなるべく広くとることになるでしょう。
空き家を介護施設として活用する際のリスク
開業にコストがかかる
高齢者向け介護施設を事業として運営する場合、医療・介護サービスを提供したり、食事の供与したりする必要があります。
そのため、介護施設運営では物件の改修コストに加え、事業のランディングコストが発生することになります。
さらに、必要コストから逆算して利用料金を高く設定し過ぎてしまうと、利用者が見つからず、事業として成り立たない可能性が懸念されるでしょう。
このように、空き家を介護施設として活用するなら、初期費用と綿密な事業設計が必要になるでしょう。経営が傾いた時のことまで想定すると、初期の段階である程度の余剰資金も用意しておかなければなりません。
要件が多い
高齢者向け介護施設の要件を満たすためには「介護福祉士の数が、常勤換算方法で入所者6に対して1以上」など、運営するための必要人員・設備に関する要件がいくつか取り決められています(※4)。
実際の運用は介護サービスの運営会社に任せるにしても、これらの法規制を把握していなければ、空き家の増改築に投下した予算が無駄になってしまいかねません。
まとめ
現在、日本には重度の少子高齢社会が訪れているため、それと共に増加している空き家を介護施設に転用する取り組みは、社会貢献に繋がるとも言えます。
一方で、空き家をサービス付き高齢者向け住宅として活用することは個人ではハードルが高い点がネックです。そのため、介護施設活用を検討しているなら、介護サービスの運営団体や空き家活用の専門家の力も借りるようにしましょう。
参考:
※1 サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム,「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(R4.2末時点)」,https://www.satsuki-jutaku.jp/doc/system_registration_01.pdf,(2022/03/18)
※2 総務省,「平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果」,https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html,(2022/03/18)
※3 e-Gov 法令検索,「地方税法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000226,(2022/03/18)
※4 社保審-介護給付費分科会,「介護老人福祉施設」,https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000171814.pdf,(2022/03/18)