夫婦が離婚すると、お互いで共有していた財産をどうすのかについて話し合わなければなりません。特に持ち家に住んでいた場合は、権利関係がどうなるのかについて不安に思われる方は多いはずです。
そこで今回は、夫婦間で実家やマイホームといった戸建て物件の財産分与を行う際に、知っておくべき知識について解説します。
目次
そもそも財産分与とは?
財産分与とは、結婚してから夫婦が共同で築いてきた財産を、離婚などをきっかけとして分配する手続きです(※1)。
財産分与は夫婦のどちらか一方からもう一方に対し請求する形で行い、婚姻期間中に築かれた財産すべてに対し請求権が適用されます。
これは、夫婦のどちらかが浮気などの離婚する原因を作った有責配偶者であったとしても同様です。財産分与は以下の3種類に分けて考えられていますが、実務上の違いはありません。
- 清算的財産分与…夫婦が婚姻中に築き上げた財産を平等に分配する。
- 扶養的財産分与…離婚によって一方の配偶者が困窮する場合、他方の配偶者が生活保障を目的として財産を分配する。
- 慰謝料的財産分与…離婚についてどちらか一方に責任がある場合、もう一方に対し慰謝料として分配する。
預金や有価証券のような金融資産は分与を行いやすい反面、家のような資産はきれいに二等分しづらい点がネックとなります。
こういったケースでは、当該資産の評価額の半分を現金で渡したり、売却してから現金化したのち財産分与をするといった対応を採ります。
なお、配偶者が独身時代に築いた資産や自身の親族から贈与された資産については、請求権の対象とはなりません。
家を財産分与する方法
①売却して現金化する
売却して現金化することは、財産分与の方法としては公平かつシンプルな手法であると言えます。綺麗に現金を分割するため、夫婦間で揉める可能性も少ないでしょう。
家を現金化すれば、住宅ローンの残債が残っていたとしても、売却益をその支払いに使うことができます。
一方で、家のような不動産を売却するためには数ヶ月の時間を要する点や、不動産所得税などの税金が課税される点には留意が必要です。
②家の評価額相当分の金銭を片方に分与する
家の固定資産税評価額をもとに、夫婦の片方に対して評価額を半分にした場合の相当の金銭を支払う分与の方法もあります。
この手法なら一方は離婚後も家に住み続けられますので、「子どもがまだ小さい」「両親と同居している」などのケースでは、選択肢として挙がるでしょう。
家の財産分与を行う際の確認事項
家やローンの名義人の確認
財産分与を行う前段階として、「家の名義が誰のものになっているのか」について確認をとっておく必要があります。特に、不動産の名義と住宅ローンの名義人が別であった場合は、分与後のローンの支払い方法についてよく話し合わなければなりません。
例えば、もともと家とローンの名義人が夫であった家を分与する場合で考えてみましょう。離婚後も妻が子どもと住み続けるために、夫がローン残債の半額を支払ったのち、ローンの主債務者を妻に変更したものの、家の名義人は夫のままだったとします。
このケースでは、ローンの完済後も家の所有権は夫のままとなっていますので、妻が子どもに家を生前贈与したいなどと考えたとしても、独力では行うことができません。
このようなトラブルが予測されるため、家を財産分与する際には、分与後の名義変更についても検討しておくことが求められます。
住宅ローンの残債の確認
家を財産分与する際にはローンの残債が存在するケースも多々あるでしょう。そういった場合は、前述のように家を売却した際の売却益から、残債の支払いに充てるのが通例です。
一方で、家の価値は購入時のまま維持されることは稀で、経年とともに徐々に下降していってしまいます。もし、家の売却価格が住宅ローン残高を上回ってしまう場合は、ローンの返済や財産の分与方法について再考しなければなりません。
家の時価評価額については不動産会社に査定を依頼し、住宅ローンの残債については返済予定表を確認したり、借入先の金融機関に問い合わせたりしましょう。
財産分与を行う際の注意点
財産分与の請求権があるのは2年間のみ
夫婦が離婚したあと、かつてのパートナーに対し財産分与を請求する権利は離婚後2年が経った段階で消滅します。これは「除斥期間」と呼ばれ、ある一定の期間が過ぎると自然と権利が消滅することになり、「時効」とは違い中断できません。
消滅以降は財産分与は相手の任意になってしまいますので、分与が必要なら必ず期間内に行わなければなりません。ただし、離婚時に相手が財産を隠していた場合は2年を過ぎても損害賠償を請求できる可能性があります。
離婚協議書を公正証書化しておく
一般的に、離婚した際には離婚協議書を作りますが、協議書を公正証書化しておけば、財産分与に関する相手方の支払い義務に対しさらに拘束力を付与できます。
離婚協議書は公正証書化しなくても法的な効力は変わりません。一方で、公正証明書化しておけば金銭債務の支払いなどについては強制執行も可能になりますので、財産分与でトラブルになるリスクを少し減らせます。
財産分与で税金は発生する?
不動産や現金などの財産を受け取ると「贈与税」が課税されますが、財産分与で分けた分については「もともとあった共有財産を分割しただけ」と見なされ、贈与税は発生しないのが一般的です。
一方で、離婚時に分与される財産が、さまざまな事情を鑑みても“明らかに多すぎて怪しい”と見なされると、贈与税が発生するケースもあります。
離婚時に行きすぎた財産分与が行われると、税務署は贈与税や相続税を逃れるために分与が行われたのではないかと疑うためです。調査の結果、明らかに課題で、税金対策のための分与だと判断されると、分与財産すべてに贈与税が課税されるケースもあります。
離婚で家の権利を移譲する場合、「不動産取得税」については課税されません。
しかし、家の名義変更には登録免許税が発生し、家のような価値が増減する資産を売却すると、取得時の時価より売却時点の時価の方が高ければ、その差額分だけ譲渡所得税も課税される点については留意しましょう。
まとめ
家のような分割が難しい資産を財産分与するなら、基本的な方法としては「家を売却して現金化したのち分与する」「家の固定資産税評価額を半分にした場合の相当金額を分与する」の2択となります。
家を財産分与する際には、名義人の変更や住宅ローンが残っている場合の支払い方法についても事前に話し合うことが求められます。
参考:
※1 法務省,「財産分与」,https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00018.html,(2022/03/17)