個人間売買は不動産売却における選択肢のひとつで、これにより不動産業者への仲介手数料が不要になったり、契約条件を自由に設定できたりします。
一方で、不動産を個人間で取引するにあたって留意するべき要素もあります。本稿では、そんな不動産の個人間売買の特徴やメリット・デメリット、発生する税金などを解説します。
目次
どのようなケースで不動産の個人間売買が行われるのか?
通常、不動産売買が行われる際には売り手側によって依頼された不動産会社が仲介に入るのが一般的です。一方で、不動産の個人間売買では不動産会社への依頼は行われず、個人である売り手・買い手双方が直接不動産取引を行います。
不動産売買において個人間売買が発生するケースとしては、以下のようなシチュエーションが多くなっています。
- 親子間・親族間での取引
- 当該物件の隣地のオーナーとの取引
- 借地権者に対して底地を売却する場合
上記の中でも、不動産を個人間で売買するケースは信用のおける親族間であるケースがほとんどでしょう。
不動産の個人間売買のメリット
仲介手数料の支払いが不要
冒頭でも述べた通り、個人間で不動産売買を行えば不動産会社に対して支払う仲介手数料は不要となります。仲介ありの不動産取引では、売買契約が締結した際に成功報酬として売却益の中から仲介手数料を支払うのが通例です。
不動産会社に支払う仲介手数料は、宅地建物取引業法によって上限が定められています(※1)。
個人間売買であれば上記手数料を支払う必要がなくなりますので、売却益から税金の支払いに充てた金額がそのまま自分の収入にできます。
契約条件の自由度が高い
不動産を個人間取引で行う場合は、契約条件などもある程度自分で自由に決められる利点があります。売却相手があらかじめ決まっているケースなどでは、不動産会社に仲介を依頼し、不特定多数に告知を行う売却スキームに比べて、特に契約条件に関する自由に設定しやすいでしょう(とは言え、双方納得できる条件の範疇でという条件はつきますが)。
いちから買い手探しを行うなら、周辺エリアの相場や時価、過去の売買状況などを踏まえて、綿密な価格設定を行わなければなりません。
個人間売買であれば、基本的には双方の話し合いのもと条件を擦り合わせていけば良いため、売買条件の着地点も見つけやすいでしょう。
不動産の個人間売買のデメリット
買い手探しが難航する
プロの仲介を利用しない不動産の個人間売買では、あらかじめ買い手が見つかっているケースを除き、売買までに非常に多くの時間がかかってしまう点がネックとなります。不動産会社は買い手探しのノウハウが豊富なだけでなく、日頃から物件購入を希望する顧客を抱えているケースもあるためです。
不動産会社に仲介を依頼した場合、買い手候補との交渉も委託可能ですので、「不動産売買は初めて」というケースでも安心でしょう。
個人間売買で双方ともに不動産取引の経験がない場合は、「そもそもどうやって手続きを進めていいのかわからない」などの状況に発展し、取引自体が滞ってしまいます。そのため、個人間で取引する際は、時間的余裕を持って取り組むようにしましょう。
売買契約書を自分で作成しなければならない
契約当事者が素人であった場合は取引が滞る可能性について言及しましたが、その中でも大きな負担となりやすいのが売買契約書の作成です。不動産取引においては、売買契約書による契約締結が通例となります。
宅地建物取引業法に規定されている範囲では個人間取引で売買契約書を作成する義務はありません。しかし、数千万単位でのお金をやり取りすることも多い不動産売買においては、契約書なしでの取引は非常にリスキーです。
そんな売買契約書に記載しなければならない項目は多岐に渡り、専門的な知識も必要となるため、素人が独力で作成するのは容易なことではないでしょう。
一般的に、売買契約書には以下のような項目の記載が必要です。記載が以下の項目を契約書内に記載することが一般的です。
- 売買対象の物件
- 売買代金
- 手付金
- 売買代金の支払い期間及び方法
- 売買対象の実測・代金精算の単価
- 所有権の移転時期および引渡し時期
- 土地に係る境界の明示及び確定測量図の作成
- 抵当権などの抹消
- 付帯設備の引渡し
- 物件状況などに関する報告
- 印紙代
- 手付解除
- 瑕疵担保責任
- 公租・公課の分担
- 引渡前の滅失・毀損
- 契約違反による解除・違約金
- 融資利用の特約
- 各種特約について
- 協議事項
契約不適合責任を負うリスクが増す
契約不適合責任とは、不動産売買が完了するまでに生じた破損・汚損などの生じた瑕疵(かし)について、契約内容に含まれていないものについては売主が責任を負う取り決めです。契約不適合責任は、近年の法改正以前は「瑕疵担保責任」とも呼ばれていました(※2)。
特に、取引を行う物件が築古のものであった場合などは、所有者が把握していない瑕疵を抱えているケースも多々あります。不動産会社に仲介を依頼した場合はインスペクション(調査)の負担も少なくて済みますが、個人間売買ではその手配も自分で済ませなければなりません。
不動産を個人間売買する際の留意事項
適切な価格設定ができているか
個人間売買で不動産を手放す際にも、妥当性のある価格設定は大切です。素人だからと言って、相場から大きくかけ離れた価格で交渉を行ってしまうと、買い手とトラブルになったり、大きく損をしてしまったりする可能性が懸念されます。
協議が難航しないように妥協点を決めておく
前述の価格設定の話も関わってきますが、個人間売買では双方納得のいく条件にならないまま、協議が難航する可能性についても留意しておく必要があります。取引相手が親族・知人であったとしても、不動産取引は大きな金銭が絡むやり取りで揉めてしまえば関係に溝が生じてしまいかねません。
そのため、契約書の準備については前もってしっかりと進めておき、価格交渉についてもある程度の情報案を用意しておきましょう。
不動産売買で発生する税金
不動産譲渡所得税
不動産売買を行い、売却益を得ると譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税率は物件を取得してから経過した年数に応じて下がっていくのが特徴です。
物件取得時からの年数に対応した税率は以下のようになります(※3)。
印紙税
不動産取引では売買契約書も課税対象となります。売買契約書に対して課税されるのは印紙税で、収入印紙を購入して契約書に貼り付ける形で納税します。
収入印紙の代金は物件価格によって、以下のように変わります (※4)。
まとめ
不動産売買を個人間で行えば、仲介手数料が不要になったり、柔軟な交渉が可能になったりする点が利点です。一方で、取引相手が決まっていない場合は買い手探しが難航したり、素人では難しい売買契約書の作成をしたりしなければなりません。
そのため、親族・知人間で売買を行う際に向いた取引方法と言えるでしょう。
参考:
※1 REDS,「仲介手数料の法定上限金額とは」, https://www.reds.co.jp/system/term/fee/,(2022/02/23)
※2 法務省,「売主の瑕疵担保責任に関する見直し①」,https://www.moj.go.jp/content/001255639.pdf,
,(2022/02/23)
※3 国税庁,「土地や建物を売ったとき」,https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm
,(2022/02)
※4 国税庁,「印紙税」,https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm,
,(2022/02/23)