預金などの数値化された財産とは異なり、実家のような不動産を複数人の相続人で分割するとなった場合、話し合いがもつれる可能性が懸念されます。
今回の記事では、実家相続にかかわる無用なトラブルを回避するため、相続発生時に行うべきことや不動産の分割方法について解説します。
目次
【トラブル回避】遺産相続が発生した後にすべきコト
遺言書の確認
相続発生時には、まずは遺言書の有無について確認する必要があります。遺言書は手書きで書かれた「自筆証書遺言」と、公証人によって作成された「公正証書遺言」に大別されます。
手書きの遺言書なら、法務局で保管されている可能性もあります。もし手書きの遺言書を発見したとしてもそのまま封を開けず、まずは家庭裁判所で検認手続(開封作業)を行わなければなりません。
もし、実家のなかなどを探して遺言書が見つからなかった場合でも、公正証書で遺言を作成していたら公証人役場で調査を行うことが可能です。
相続人の確定
一般的には、相続発生時点で相続人が確定しているケースがほとんどだと思われますが、念のため戸籍を調べ、被相続人が過去の配偶者との間に子供を設けていたりしていないかチェックしましょう。
もし、遺言書が残っておらず、遺産分割協議で相続割合を決定する必要が生じた後から追加で相続人が判明した場合は、協議内容が無効になってしまうリスクもあります。
借金などの債務の確認
遺産相続では、実家や預貯金などのプラスの資産以外にも、ローンの残債や債務などといったマイナスの資産についても相続対象となります。
相続人はそういったマイナス資産を相続すると返済義務を負ってしまいますので、相続が発生してから慌てないようにするためにも被相続人の生前のうちから債務などについて把握しておくことが必要です。
仮に、リバースモーゲージなどを活用し、実家を担保にしてお金を借りていた場合は、相続後に実家を処分しなければならなくなります。金融機関や消費者金融に対する負債に関しては信用情報会社の情報を参照すれば確認可能です。
なお、あまりにも負債が多い場合は、実家を含めたすべての遺産相続を諦め、相続放棄を行うことも視野に入ります。
一方で、相続放棄は相続財産の処分や名義変更後は行えなかったり、相続発生から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があったりする点には留意しましょう。
相続人間の相続割合
遺言書がある場合
原則として、遺言書が存在する場合はその内容に従って、実家を含めた遺産の相続を行います。一方で、相続人の相続割合については法律で最低限「遺留分」として保障されています。これにより、遺言書での相続割合の指定に関わらず一定の遺産相続が可能です。
なお、実家を相続した場合の名義変更では、下記のように遺言書も含めたいくつかの書類を提出する必要がありますので、早い段階で集めておきましょう。
- 遺言証書
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 受遺者の戸籍謄本
遺言書がない場合
遺言書がない場合は、相続人間で遺産分割協議を行い、実家を含めた相続財産すべての分配方法を決める必要があります。なお、民法では被相続人との間柄に応じて「相続人の順位」「相続割合」が規定されています。
基本的に、遺産分割協議では相続人間で自由に分割割合を決められますが、もし意見が割れた場合は民法上の相続割合を引き合いに出すようにしましょう。
<相続人の順位>
第1順位…被相続人の子供
第2順位…被相続人の父母
第3順位…被相続人の兄弟姉妹
<相続の割合>
実家を相続人間で分割する4つの方法
代償分割
代償分割とは、遺産を他の相続人よりも多く取得してしまった場合、他の相続人に対して代償金を支払う形でバランスを取る分割方法です。
実家のような不動産は分割して承継すると手間がかかってしまいますので、代わりに実家の相続人の預貯金などから不足分を他の相続人に支払う形を取れば、無用なトラブル回避に繋がります。
換価分割
換価分割は、実家を売却し、その売却益を各相続人に再分配する承継方法です。代償分割に比べて家系に実家の所有権は残らないものの、より不公平感のない分割のやり方と言えます。
一方で、実家のような不動産を売却した際には不動産会社への仲介手数料や譲渡所得税を支払わなければならない点には留意が必要です。
現物分割
現物分割とは、不動産などの相続財産を“そのまま相続する”方法です。そのため、現物分割は基本的に相続人が1人の場合に用いられるのがほとんどでしょう。
一方で、相続財産が土地である場合は「分筆」を行うことにより、各相続人に分割できる場合もあります。
共有分割
共有分割とは、相続する不動産の権利を複数に分割し、各相続人で共有状態で保有する方法です。例えば、被相続人に子供が3人いる場合に実家を綺麗に共有分割しようとした際には、それぞれが1/3の権利を相続して共有登記を行います。
共有分割を行えば、実家の所有権を家族に残したまま綺麗に権利を分けることができますので、ある意味で最も綺麗な落とし所とも言えます。さらに、“権利を分割するだけ”ですので、物件そのものに手を加える必要もありません。
一方で、実家の処分やリフォームを考えた際には、他の共有者の承認を得る必要があります。そのため、問題を先送りにしてしまっているだけの状態になるケースもあるでしょう。
相続人の誰かが実家に住むならどう分けるべき?
例えば、兄弟の誰かが両親と実家に住み続けていた場合、相続後も「実家に住みたい」と主張するケースがあります。特に、その兄弟に子どもがいるケースでは、拠点を移すのは避けたがるはずです。
そういった場合には、実家を売却する換価分を選択することはできませんので、代償分割もしくは共有分割による遺産相続を行うことになるでしょう。
一方で、代償分割を選択したとしても、実家を相続する当人に代償分の支払い能力がないといった問題が発生する可能性も懸念されます。その点も加味して、トラブルにならない落とし所をいくつか検討しておく必要があります。
誰も実家を相続したくない場合の対処法
相続人の誰も実家を相続したがらないケースでは、実家を売却して売却益を分配する換価分割を選択するのが無難です。もし、両親の生前から兄弟間などで実家を相続しない意向が固まっているなら、生前に売却し、老人ホームに入居する選択肢もあります。
まとめ
遺産相続が発生した場合は、まずは遺言書や相続人について確認を済ませ、滞りなく相続が完了できるように準備をしておく必要があります。
一方で、実家のような不動産は、預金や債券のように綺麗に相続人間で分割しづらい点がネックです。代わりに代償金を支払う代償分割や、実家の権利のみを分割する共有分割など、不動産を複数人の相続人で分ける方法はいくつかあります。
どの方法を選択するのかについては、相続人間で話し合い、禍根を残さない方法を選択しましょう。