遺産相続などで実家を相続した方の中には、すぐに売却するのではなく「しばらくは維持し続けたい」と考える人もいらっしゃるでしょう。そのような場合に懸念点となる要素のひとつが、実家の維持に必要な費用です。
本稿では、実家の維持について不安を抱えている方のために、実家の維持にかかる費用について解説します。
目次
空き家となった実家を維持するメリット
空き家となった実家を維持し続ければ、将来自分たちで住むだけでなく、賃貸やカフェとして運営するなど、利活用の余地を残すことができます。
特に、実家を収益物件として活用すれば毎月安定的な副収入を得られるようになりますので、直近は維持費がかかったとしても、将来的な投資と割り切れます。
想い出の詰まった実家を即座に処分してしまうことに関しては、忍びないと感じる方も多くいらっしゃるでしょう。実家を維持し続ければ、自身の想い出に区切りをつけ、心の整理をするまでの時間を得られるというメリットもあります。
実家を維持し続けるリスク
管理負担が大きい
戸建て住宅のような家屋は、定期的に管理し続けなければ、たちまち老朽化してしまいます。家屋を放置すれば内部に湿気が溜まった結果として腐食したり、害虫が繁殖したりするためです。
さらに、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法(※1)」により、放置された空き家の危険性が高まると「特定空き家」に指定されることとなりました。特定空き家に指定されれば、税金の支払い額が上昇してしまい、行政からも指導が入ることになります。
こういった形で実家が老朽化することを防ぐためには、月に一回程度は実家に趣き、換気や清掃のメンテナンスを行わなければなりません。実家が遠方に存在する場合は、多くの交通費や時間が必要となり、負担も増してしまうでしょう。
場合によっては管理業者へ簡単な作業を委託するという選択肢もありますが、それでも費用負担は避けられません。
倒壊や放火などの犯罪の発生
前述のように、家屋は人が住まなくなると段々と老朽化が進みますが、それによって高まるのが倒壊のリスクです。特に、古い耐震基準で建てられた築古の木造物件などはそれがより顕著でしょう。
追加で懸念されるのが、人が住まない実家は放火や不法侵入といった犯罪のターゲットにもなり得ることです。仮に実家をターゲットにした犯罪が起きてしまえば、その所有者に対し管理責任が問われることになります。
周辺住民とのトラブル
倒壊・犯罪発生のリスクが高まることで直接的な被害を受ける可能性があるのは、実家の周辺住民です。さらには、空き家となった実家の見た目があまりにもひどい状態ですと、景観の悪化にも繋がります。
実家近辺の住民なら、もしかしたら子供のころにお世話になったご近所さんもいるかもしれません。実家を適切な状態で維持できなければ、そういった方たちに迷惑をかけたり、トラブルに発展したりすることが懸念されます。
実家の維持に必要なコスト
固定資産税
実家を維持するためのコストと聞いて、まず最初に挙げられるのが固定資産税でしょう。実家に対し発生する固定資産税額の計算方法は「固定資産税評価額 × 1.4%(標準税率)」です。
しかし、実家が空き家になったとしても住宅用地に対する税率の軽減措置は維持されたままですので、実際の税率は下記の通り変動する可能性があります(※1)。
上記の通り、実家を解体して更地の状態にするより、実家を維持し続けた方が固定資産税の支払額を抑えることが可能です。一方で、実家が前述した特定空き家に指定されれば、住宅用地に対する減税措置がなくなってしまう点には留意が必要です。
都市計画税
固定資産税と違い、都市計画税は全ての実家に対し課税される訳ではなく、各自治体が指定した区域に実家が建っている場合に支払い義務が生じます。対象となるのは、都市計画で定められている以下の区域です。
- 市街化区域内
- 市街化調整区域のうち条例で定める区域
- 区域区分が定められていない都市計画区域(非線引き区域)で条例で定める区域
都市計画税は「課税評価額 × 税率」で納税額の計算が行われ、固定資産税と同様の住宅用地に対する軽減措置を受けることが可能です(※2)。
火災保険
実家を維持し続ける場合、火災保険に入って火災や自然災害のリスクに備えておく方がベターです。適切に管理していたとしても、前述のように放火などの犯罪被害に遭う可能性も懸念されます。
火災や倒壊などにより周辺住民や隣家などに被害が及べば、多額の損害賠償を支払うことになるため、火災保険には加入しておいた方が安心できるでしょう。一方で、実家が空き家の場合は「住宅物件」ではなく「一般物件」として保険に加入することになるため、その分保険料が高くなってしまいます。
水道光熱費
実家をいつでも使えるように維持するためには、定期的に行うメンテナンスで水道を使用したり、電気を使って故障がないかなどのチェックを行う必要があります。
その場合、水道や電気をほとんど使っていなかったとしても、基本使用料が発生しますので、実家の維持に必要な費用としてあらかじめ計算に入れておかなければなりません。
修繕費用
実家を適切に維持・管理していたとしても、どうしても経年により外壁が剥がれたり、天井から雨漏りが発生したりする可能性があります。そのようなケースでは、修繕のための工事費用として数十万円からの予算が必要になるでしょう。
実家を維持したまま活用する際の選択肢
賃貸
実家を維持し続けるものの、誰も住む予定がないのであれば賃貸物件として貸し出すのも選択肢のひとつです。実家を賃貸物件として活用し、定期的な家賃収入を得られれば、それを固定資産税の支払いなどに充て、残った分を副収入にすることができます。
さらに、人が居住することで間接的に管理負担がなくなり、水道・光熱費についても入居者負担となるなどのメリットがあります。
空き家バンクへの登録
空き家バンクとは、各地方自治体が実施している空き家所有者と空き家を利用したい人をマッチングするサービスです。
空き家バンクへの登録にあたっては、必要書類を揃えて自治体へ提出し、現地調査を受ける必要があります。
まとめ
想い出の詰まった実家を処分することに対して、抵抗感を覚える人は少なくないでしょう。そういった場合は、固定資産税や修繕費などがかかったとしても、実家を維持し続けるのも選択肢のひとつです。
ただし、実家に誰も住まず、空き家となってしまうなら定期的に管理・メンテナンスを行う必要がある点については留意しておかなければなりません。
参考:
※1 国土交通省住宅局住宅総合整備課,「空家等対策特別措置法について」,https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001385948.pdf,(2022/03/09)
※2 総務省,「固定資産税の概要」,https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html,(2022/03/09)
※3 総務省,「都市計画税」,https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_10.html,(2022/03/09)